
(1) 次のように、わたしは聞かせていただいた。
あるとき、釈尊は王舎城の耆闍崛山においでになって、千二百五十人のすぐれた弟子 たちとご一緒であった。また、文殊菩薩を中心とする三万二千の菩薩たちも加わっていた。
(2) そのとき王舎城に阿闍世という王子がいて、提婆達多という悪友にそそのかされて 父の頻婆娑羅王を捕え、七重にかこまれた牢獄に閉じこめ、家来たちに命じてひとりもそこに近づくことを許さなかった。王妃韋提希は深く王の身の上を気づかい、自分の体を洗いきよめて、小麦粉に酥蜜をまぜたものを塗り、胸飾りの一つ一つにぶどうの汁をつめて、ひそかに王のもとに行き、それを差しあげた。頻婆娑羅王はこれを食べ、水で口をすすいでから、合掌してうやうやしく耆闍崛山の方に向かい、遠く山上の釈尊に礼拝して、次のように申しあげた。
「 世尊のお弟子の目連尊者はわたしの親しい友でございます。どうかお慈悲をもって 尊者をお遣わしになり、わたしに八斎戒をお授けください
」
そこで目連は、神通力によってまるで鷹や隼が飛ぶようにすみやかに頻婆娑羅王のもとへ行った。そして毎日このようにして王に八斎戒を授けた。釈尊はまた、富楼那をお遣わしになり、王のために教えを説かせられた。こうして三週間が過ぎたが、頻婆娑羅王はその間、韋提希の運ぶものを食べ、尊い教えを聞くことができたので、表情もおだやかで喜びに満ちていた。
(3) ちょうどそのころ、阿闍世王が牢獄の門番に向かって尋ねた。
「 父はまだ生きているか 」
門番は答えて申しあげた。
「 王さま、母君が小麦粉に酥蜜をまぜてお体に塗り、胸飾りにぶどうの汁をつめて、父君に差しあげておられます。また、仏弟子の目連尊者や富楼那尊者が神通力により空から飛んできて、父君に教えを説いておられます。わたしどもにはとても制止することができません
」
阿闍世王はこれを聞いて、母の韋提希を怒って言った。
「 母は罪人だ、罪人である父の味方をするのだから。仏弟子どもも悪人だ。あやしげな術を使って悪王である父をたすけ、何日も生かしておくとはもってのほかだ
」
そして剣をとって、母の韋提希を殺害しようとした。
そのとき聡明で思慮深い月光という大臣が、同僚の耆婆とともに 阿闍世王に一礼して申しあげた。(つづく)