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扇子と素踊り
先号、先々号では日本舞踊での大事な小道具「扇子」について触れました。 今回はそこから延長して「素踊り」という日本舞踊独特の演出に触れたいと思います。
扇子がシンプルながら如何にその表現力に富んでいるかは既にお話しました。勿論扇子とはあくまでも様々ある舞踊小道具の一部ですので、どの踊りでも扇子を使うか、、というと必ずしもそうとは限りません。膨大な古典曲のなかで、扇子を使わない踊りも多々ありますがそんな中、扇子の効能(?)が一番発揮されるのが「素踊り」という上演形式においてだと言えましょう。
「素踊り」というのはその名の通り「素」で「踊る」、つまり歌舞伎舞踊で身に付ける衣装、鬘や舞台装置を最簡略化した形で上演するものです。男性なら紋付袴のみ、女性は多少お役により異なりますが最簡略化した姿で作品に挑みます。
勿論、舞台装置もできうる限り簡素化され何処までも「素」つまり素材そのものの味が醸しだされるよう工夫されています。
当然、演者の使用する小道具も簡素化されるわけで、そこで扇子の出番となります。扇子以外の道具も使われますが、工夫次第であらゆる事物を表現できる扇子は、この「素踊り」においては特に欠かすことの出来ない小道具です。何の飾りも無い衣装に扇子一本で挑む踊り手がどれだけ豊潤な表現を展開してくれるか、それこそ「素踊り」を鑑賞する上での最高の醍醐味と言えます。
極彩色の衣装や装置に見て取れる素晴らしい色彩感覚やデザインの奇抜さも日本舞踊の魅力ながらその対極で、シンプルの極地において最大豊かな表現を可能にする知恵と技術もまた日本舞踊の誇りとするところです。
その分、踊り手にとってもうま味もアラも出てしまい誤魔化しが効かない分挑戦し甲斐があるともいえます。「○○を素踊りで踊ります」となるとそれだけで挑戦意欲を感じ取ってしまうのが我々本職の性ですが、それほどに「素踊り」とは究極の難関でもあるのです。
かって、「本当に上等な踊り手は畳2畳の広さに扇子一本あれば、人を惹きつけることが出来る」といわれたとのこと、、、。まさしく素踊りの極意と解釈することができますね。
「素踊り」でこそ実力が発揮される、、これに全ての舞踊家が憧れているといっても過言ではないでしょう。
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